東京湾景 吉田修一

東京湾景

東京湾景

こんな恋愛を、20代にしていたらどうだろう?
10代後半にものすごく好きな人に出会っていたらどうだろう?
そうしていたら、どんな自分が今あるのだろうか、と。
そんなことを考えながら読んでいた。
それぞれの心の痛みが、自分にも感じられるような気さえした。

過去なんて修正できる、人間はそれくらいしぶとい

と著者がインタビューで答えていたのが印象的だった。
私にはそれが

過去なんて修正していいんだよ、そうしないと人間は生きられないんだ

というふうに変換されてしまう。強い人間と弱い人間の差というのかな。
やっぱり、好きな人とは向き合いたい、お互いがお互いの理解者でありたいと思う。
人を信じるにもパワーがいるのだ。
湾岸という土地と、主人公ふたりの心の場所みたいなものの位置関係が象徴的に描かれていると思う。
そんな構図や登場人物たちの役割が、わざとらしいはずなのに、そうは思わせない書きっぷりに感心してしまう。
恋愛小説家や、教え子と付き合うも姿を消した女教師、一度寝たことにこだわって自分の判断に自信が持てなくなってしまう上司……。
外伝として、恋愛小説家の目から見た物語も読んでみたいとは思うものの、絡み方が絶妙なバランス。そんな感じ。
きっと、時間が経つほどに、印象が強まるというか胸に迫ってくる、そんな作品だと思う。

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ありんこ > ふりすかさんの読み方は深いですね。二人の心の場所みたいなものの位置関係が湾岸という土地で象徴的に描かれているという解釈は目からうろこです。いろんな意味でとてもいい作品だったし、吉田さんの中では今のところベスト1です。 (2003/12/12 20:42)
あしか > 今『最後の息子』の読み直しに入ってるんですが、話の断片しか記憶にないくらいあんまり印象のなかった作品で、あの頃は、こんなの書くようになるなんて全然気がつかない、見る目の全くないあしかです。小説家の設定ですが吉田さんご自身も悩まれた所かと思いますが、話を途中で止めてしまうというのはちょっと意外でした。「自分たちとは違ったハッピーエンドが続いていた・・」みたいなこと勝手に想像してたんです。 (2003/12/13 01:24)
ふりすか > ありんこさん、深いだなんてそんなことないですよ。なんとなくラストのふたりのやりとりで感じたというか。普通に書けばイヤミっぽい作品になるだろうに、さすが、と思いました。 (2003/12/13 19:24)
ふりすか > あしかさん、話を途中で止めてしまうというのは、ラストのところですか? ともかく、「最後の息子」はこういう視線というか思いや悲しみがあるんだな、きっと、もっともっといろんな立場の人のものがあるんだな、って考えさせられました。 (2003/12/13 19:26)
あしか > はい。そうです。連載小説の話です・・・ネタばれでした・・・。 (2003/12/13 20:51)
マウス > この小説家の部分については吉田さんのちょっと自虐的なところがでていて興味深く感じました。ややギクシャクしていて違和感を感じたのですが? (2003/12/13 21:41)
ふりすか > 青山ほたるの存在は、結構微妙なんですね、私の中では。取材したことをまんま書いてしまうという、あんまりな物書きなのに、主人公亮介の心を揺らしたり、その主人公を振り回す? 重要な役割でもあったので。それにしても、傷がないというなりに、落とし前はつけて欲しかったですね〜。 (2003/12/14 13:28)
あしか > 私がこの話のなかの特に亮介に惹かれたひとつが、自分をモデルにした話だと知ってて、(ヒトに聞いたりはするけど)自分では読もうとしなかった所なんですよね。カッコつけるんじゃなくて、ただ字読むのがめんどくさくて読んでない、そういう所にくらっとしてしまうんですよね。だからこそ、そこと無関係に(ふりすかさんのおっしゃるように)“落とし前”つけて欲しかったです。でも本当にこのヒト“人間”書いてうまいなあとつくづく思います。作家に取り入る隣りの彼女。そして同僚である彼氏。必死に生きてるんじゃなくてただ居るって感じが・・。 (2003/12/16 01:05)
ふりすか > そうそう! あしかさん。亮介は、クールなんだけど、カッコつけてないっていう。周りの人間については、ちょっと役割を与えすぎてるきらいがなくもないけど、ウマイですよねぇ。 (2003/12/17 08:48)