抱いて、そしてそのまま殺して 佐藤亜有子

抱いて、そしてそのまま殺して

抱いて、そしてそのまま殺して

予備知識をほとんど持たずに読みはじめたせいか、“ぴん!”と来るまで時間がかかりました。
あんまり文章が上手ではないなあと感じたり。
主人公が仕事を依頼する、あるエージェントの存在が、なんとも現実離れしているのだけど、どうやって検索すればたどり着けるんだろうとも思ったり、私だったらどうやってオーダーするかしら?と妄想してみたり、そしてその仕事っぷりは、かなり事務的で淡々としてるんだけど、クライアントに対しては誠実で仕事のクオリティも高い印象があって、そんな設定と、最初に感じた文章が上手でないとこと──それは技巧的でなくということかな──それらが荒唐無稽さを薄めているのでしょうね。
さて、肝心のストーリーなのですが、途中まではね、わくわくしながら読んだです。
主人公のココロノヤミなどは全く具体的に語られないにもかかわらず、Xデーに向けての日常の緊張感などは伝わってきて、いよいよクライマーックス!!
……そのXデーがね、そこそこ色っぽくていいんだけど、あーどーしてこうなっちゃうのかしらと残念に思ったのが正直な感想。
「……そのまま殺して」って言ってんじゃん!てな具合でして。
後半は後半でおやぢの言い分が有り体で芸が無いとは思うものの、エンタテイメントとしてはアリかな?とは思える。
そうするなら前半と後半とは分けて書くことは出来なかったのかな?
あの文体と表現のクールさで必殺仕事人の現代版みたいにしたらいいのにと。
でもそれが無理な相談であることをわからせるのが著者あとがき。
これって反則なのでは?と思うし、そこまで言うのならば自分をさらけ出さないと読者にも共感されないのではなかろうか?
そこは某最高学府ご卒業のプライド故か? そうは思いたくないんだけど、あの書きっぷりは反感を持たざるを得ませんね。
なんだかあとがき読んでこれほどがっかりした本もめずらしいです。
あたしが担当者だったら書かせないね。
載せるんだったら本編にもっと反映させるべきだし。
折り合いがつかなければ出さなくていいとすら思う。
もちろん作品は自分のものだし、第三者に口出しされたくないでしょう。
でもね、出版するということは世の中に出すってことで、第三者に何かを訴えることなんだよってことをもっと心に留めて欲しい。
それは高尚なことではなくって、その何かは馬鹿馬鹿しさやくだらなさだっていいと思う。
あとがきであんなことを書いたのならば、きちんと作品で落とし前をつけろよ、でなきゃ言い訳するのよしなさいって。自費出版じゃないんだから。
同時収録の「渇き」を読んで感じたことでもあるけれど、これくらいの長さで、クールにピシッとしめた短編を書き続けて欲しいかも。
作品がおもしろくない訳じゃないけれど、私としては、あのあとがきのせいで作品の評価も変わってしまったのは残念。