愛のモンダイ 素樹文生

男は恋を語れないのか? 女は恋を語れるのか?(帯を目にして考えた)
というよりも、男は女の手の内を知りたくないはずなのに知りたい、女は知りたいはずなのに本当は知りたくない……のではなかろうか?
かくいう私も、男の本音は知りたいが、知ってしまえば後悔するのではないかと不安な気持ちを抱えながら読み進むと、恋愛における男の手のうちは、語られそうで最後にはぐらかされるか、話が脱線するか……そんなフラストレーションを感じた1冊だ。
とくに、恋愛論として興味のあるテーマ“男が結婚を決意する時”は、続で、ある人のその答えが書かれているんだけど、これって、あり?
著者本人のことじゃないからOKなのかしら? 相手に同情するわ。
まったく人格的に無視されているから。
こんな理由で結婚決められたらたまったもんじゃないし、理解できない。
正直不愉快だー。本人には言わない方がいいよ、っていいたいし。
それがいくら冗談であっても、だ。
愚痴めいてしまったけれど、男は女に手の内を見せたくないのだ、と。
素樹文生本人の考えに触れられていないのがその証拠か。

中でも秀逸なのは“何度でも”。友だちにも勧められた1編。
これはかなり完成度が高い短編といっていいでしょう。
とても読み手の心に染みる出来になっている。
前半は、死にたいと思うときのこと、そういう人の気持ちが書かれていて、納得させられる文章である。
私もここ何ヶ月か、死にたいと数回思い、心の中では何度も手首を切っているし,実際にナイフを当てたこともある。もちろんそんなことできなかったし、まさに、本当に死ぬつもりなんてないのだ。
そんな気持ちをうまく表現してくれている。
死にたいと思ったら、想像では何度自分を殺してもいいけれど、前半だけでも読んで、深呼吸をすれば、なんとなく、思いとどまることができる。
気楽に行こうぜって、さりげなく、素敵でやさしい、押し付けがましくない文章。
後半は、そんな思いを支える出来事が書かれている。
シンディ・ローパーの♪Time after Time♪がこんなにいい詩だったとは。
そしてキーワードは、「見つられる」、「見つけて」。
私は自分を「見つけて」くれた人を大事にしたい、その大事な人を「見つけたい」。
この前半と後半の組み合わせが絶妙な(別々でも成り立つだろうに)、ちょっといい話に出会えてうれしく思っている。

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エリコ > おお!ほんとだ!よく似た感想で、しかもふりすかさんとわたしだけしか本プロに上げてない(笑)。
結婚を決意する友人の話、そういうのもあるのかもなって思ったんですが、仮にそうであっても、あんたはいいかもしれないけど相手とか相手の親のこと考えてんのかよってところで、男としてはNGだなあ。
「何度でも」は、よかったですよね。しみました。 (2004/11/18 22:01)