かなしみの場所 大島真寿美

かなしみの場所

かなしみの場所

幼少時に誘拐された経験を持つ主人公は、周囲の人間がそのことに触れないようにとの心遣いから、当人も実際に誘拐されたのかどうなのかあやふやになりそうなくらい、その記憶が希薄になっている。
そして、離婚して出戻った彼女はアクセサリーを作り、「梅屋」という店に卸すという生活を送っている。

タイトルの「かなしみの場所」とはどこを指しているのだろう。
どこにもかなしいところなんてないじゃないか。
しかし、どうして離婚したのだろう。そこが引っかかる。
WEBを検索していたら「目黒考二の中年授業」でもそこが気になる。とあったのでホッとした。こんなことを気にしてしまうのは私だけか?と思ったりしたから。
ああいう理由づけは卑怯なんじゃないか、確かに、自分勝手だろうが、ただ気持ちがなくなったのが本音だろうに、あれを理由にして行動するなんて、不愉快だったもので。
まあ、目黒考二も「果那と亮輔の仲がどうして壊れてしまったのかを描くのが眼目ではないから、ここではこの二人がどうして知り合ったのかということについても、何も描かれない。」と書いている。
そりゃそうなんだけど、じゃあなんで書いちゃうんだろうね。
なんか、離婚をドラマチックな出来事のように考えてるんじゃないかという匂いがするのが個人的にイヤ。

本題からそれちゃったけど、そんな余計なエピソードに腹を立てながらも、(面白いエピソードもあったけど)その「誘拐」がどんなものだったか、そのときの主人公や「誘拐犯」の気持ちを読んだところでほんとうの気持ちなんて、本人にしかわからないものだなあとつくづく感じたし、周囲のよかれと思うからこその言動も、わかって欲しい人にはきちんと話さなくちゃいけないなあと改めて感じてしまった。
と、いうわけで主人公の離婚の原因は、その話すらしたくないほど相手に気持ちがなくなったということでしょうね。