『コイノカオリ』

コイノカオリ

コイノカオリ

面白かった〜!
アンソロジーって出来(好き)不出来(嫌い)の差が激しかったりするんだけど、これは多少の差こそあれ、満足のいく1冊。
甘い香りなんて一つもないの!

角田光代

シャンプーの匂い。不倫でシャンプーするか?って突っ込みたい気もあるけれど、そこに気づかない夫の無神経さが妻にそうさせるんだよな、とか冷静考える自分。
危ない(笑)
「二人は同じ匂いがする」と指摘した主人公の中学生の感覚と、母の不倫相手のイワオさんの「…(彼女)とぼくの魂っていうか、底にあるものが似てるっていわれた」のかと思っていたのには、おめでたさを感じるがその反面、現実(中学生の子どもの目線)は残酷だということもいやというほど思い知らされる。
そして、後日談がまた、いい。短編のしまりの良さとでもいおうか。

島本理生

消臭剤がわりのレモンの匂い。いやー、残酷ですねえ。まったく。
ちょっと私にはきつかったなあ。歳をごまかしてなくったって、たった5歳(爆)年下に、過去を「見えない敵」と同じなんだと年齢を理由に振られましたからねえ。
って、おまえ、エヴァ見過ぎ。そんなたとえ引くわ!(負け惜しみ)
誰だっけなあ、ある作家が年下と付き合って何が怖いかって、その彼を若い女に奪われることである。
なるほどなあと、納得した余計なことまで思い出させた、底力を感じさせる作品。

栗田有起

マッサージに使うはちみつの匂い。
タイトルが「泣きっつらにハニー」。こういうセンス結構好きです。
主人公の女子高生繭子が背負う現実はかなり厳しい。それを、湿っぽくなく、だからといって、妙に楽観的に描いているわけでもないところに好感が持てる。

生田紗代

煙草の匂い。ちょっと私にはよくわからなかった。夜の海の怖さも煙草の匂いもわかるんだけど、こういった大学生のノリについていけないせいかな(苦笑)

宮下奈都

夫の帰りを待ちながら、豆を煮込む匂い。
こちらのタイトルは「日をつなぐ」。このセンスはすごくないですか? 素敵です。
話はちょっとつらいものがあるんだけど、多分一番あと引く作品化もしれない。
この人の目のつけ所というか、描くポイントが何ともいえなくて、初めて読んだ作家だけれど、次に彼女の名前を見たら、迷わず手に取り読むことでしょう。

井上荒野

作品としては、匂いに関して一番弱いかな。
それにしても、いつも、理解に苦しむ夫婦関係を描くなぁ。
まあ、江國さんのもそうなんだけどさ、夫婦に関していえば。
長い年月とともに、積み重なってきた女たちの思いが怖いんです。
私にはそれが醜いものに思える。汚いというか。
私も結構、根に持つタイプだけどなあ。こうなっちゃったら嫌だなあ。

つい比べてしまうけど、「恋愛小説」よりは、書き手が、企画にきっちりこたえているところは評価したいと思う。
「コイノカオリ」をモチーフにするだけでなく、誰もがきっと大なり小なり、危うさを抱えて生きているんだということも伝わってくるような。

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せいこ > これ良かったよねー。ホントに「コイノカオリ」なのよね。
私も宮下奈都「日をつなぐ」が一番好き。全部読んだ後にこのタイトルを見てやられました・・・。まだ新人さんなのよね。他の作品を早く読みたい。 (2005/03/08 20:27)
ふりすか > 「日をつなぐ」って、簡単な言葉なのに、ものすごくいろんなことが含まれた深いタイトルだよね。 (2005/03/08 23:40)