『ナラタージュ』島本理生

ナラタージュ

ナラタージュ

過去に「シルエット」の感想をアップしてありますが(あれれ、なんで「リトルバイリトル」の記録がないの?)、いい部分の感想は同じかもしれません。目のつくところも似ています。
この年代だからこそ書けるという雰囲気はそのままに確実に書き手として成長してるし、取り上げる音楽や、映画なんかも、嫌みも薄れ、効果的だったと思う。
とくに先生に最後に借りたDVDが「エル・スール」なんて、葉山先生と泉の魅かれっぷりがわかるわ、ってなもんで。
そういうわけで、格段に自分の中で作家、島本理生の株が暴騰しています。
ふだん、みんながいい、いいっていう作品はダメなことが多いんだけど、これは、素直に良かった。
いろんな場面で涙をこらえました。今でも思い出すと危険です。

看板に偽りなし。角川のページの、この宣伝のページを読了後、目にしただけでもぐっとくる。
これ以上の言葉が見つからないですよー。
葉山先生と泉はもちろんだけど、泉と小野くん、志緒と黒川くん、その他の登場人物たちのこともきちんと読んであげて欲しいです。
こんなにたくさんの要素があるのに、うっとうしくない。どれもきちんとしみてくる。

以下、ネタバレを、織り交ぜつつ書いてますのでご了承下さい。
本当に、葉山先生という男は、ずるい! 弱い! 
読んでる途中で「ああ、やっぱりね……そんなこったろうと思ったよ」などと思うくらいわかってはいても、そんな男に魅かれる泉もわかるんだなーこれが。
私は泉の友だちの黒川くん(クロちゃんと書くとサーヤの婚約者を連想するので・苦笑)と志緒の関係も興味深かった。
黒川くんの留学が近くなってからの志緒の行動とか、その真意を知った黒川くんの
「強いことを言いたがるのは、本当はそんなに強くないからだって、ようやく気づいた」
これだけでもまたうるうるきちゃう。
そして、小野くんの嫉妬は、まぶしい。
これは30代後半の私だからいえるんだろうなあ。「若さ」がまぶしいんだろうな。
普通なら許せないことだけど、そうさせてしまったのは泉、それすら自覚して最後の言葉を飲み込む。
葉山先生と泉は、これだけ魂が呼び合っても人生をともに歩めない。
それが強ければ強いほど無理なんだよね。。
泉の婚約者の、プロローグ?の言葉も、見返しに書かれている言葉も、惚れる。
そしてラストのエピソードもなんて残酷なの! 「葉山の野郎……」ってつぶやいちゃいましたよ。

ひとつ気になったことがあります。
「もう人工呼吸器をはずさなくてはならないと……が決断した」という説明。
人工呼吸器ってはずしちゃいけないんじゃなかったっけ?
そこのところもう少し説明が欲しかったかな。欲を言えば。」